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大阪地方裁判所 昭和23年(ヲ)188号 決定

大阪市南区久左衞門町二四

喜久屋本店内

申立人

出海政一

右代理人弁護士

金子新一

大阪市南区

被申立人

南税務署長

上田義治郞

右申立人より提起に係る当庁昭和二十三年(行)第一七八号所有権確認差押処分取消登記抹消請求事件に付行政事件訴訟特例法第十條に基く公売処分停止命令の申請があつたので当裁判所は右処分の執行に因り償うことの出来ない損害を避ける為緊急の必要があると認め当事者の意見を聽いた上左の通り決定する。

主文

別紙表示の物件に付き昭和二十三年四月二十二日大阪司法事務局受付第一一二八〇号権利者大蔵省なる差押登記に基く公売処分は左記訴訟事件本案判決ある迄之を停止する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 沢井種雄 裁判官 井上三郞)

物件表

大阪市南区周防町一番地、二番地、

三番地、四番地、五番地、六番地上

家屋番号 同町一番

木造瓦葺二階建 店舖 一棟

建坪二百十七坪四合五

二階坪二百坪八合五

以上

(決定の事実、理由を明瞭にするため、当事者提出の申立書、意見書を掲記する。)

1 公売処分停止命令の申立

大阪市南区久左衞門町二十四番地

喜久屋本店内

申立人 出海政一

大阪市住吉区粉浜中之町二丁目六〇

右代理人弁護人 金子新一

大阪市南区南税務署内

被申立人 国

右代表者法務総裁

鈴木義男

申立の趣旨

別紙表示の物件に附き昭和二十三年四月二十二日大阪司法事務局受付第一一二八〇号権利者大蔵省なる差押登記に基く公売処分は本案判決あるに至るまで之を停止する旨の御判決を求めます。

申請の理由

一、被申立人は件外森本友蔵に対する国税徴收の為め同件外人の所有登記名義に係る別紙表示の物件に付き昭和二十三年四月二十二日大阪司法事務局受付第一一二八〇号差押登記に基いて差押をなし来る二十日午前十時公売に附する旨公告するに至つた。

二、前項差押登記が順位第七番として登記せられるまでに本件建物には次の一番乃至六番の各登記が済まされてある。

(イ) 順位第一番 保存

一、受附 昭和二十一年十月十九日 第一一四六〇号

一、所有者 大阪市南区久左衞門町二十四番地

出海政一

(ロ) 順位第二番 始期附所有権移転請求権保全仮登記

一、受附 昭和二十一年十一月十三日 第一二七六三号

一、原因 昭和二十一年十一月十三日 始期附売買契約

一、取得者 大阪市阿倍野区阪南町中一丁目四十一番地 森本友蔵

(ハ) 順位第三番 移転

一、受附 昭和二十一年五月十七日 第九〇九四号

一、原因 昭和二十一年一月十五日 売買

一、取得者 京都市上京区大将軍西町九番地 林俊治

(ニ) 順位第四番 移転請求権保全仮登記

一、受附 昭和二十二年六月五日 第一〇八七五号

一、原因 昭和二十二年六月四日 代物弁済予約

一、取得者 京都市下京区東木屋町通松原上ル三丁目天王町百四十五番地

横家治

(ホ) 順位第五番 第四番の仮登記の抹消

一、受附 昭和二十二年十一月十一日 第二七七九二号

一、原因 昭和二十二年六月十七日 権利抛棄

(ヘ) 順位第六番 移転

一、受附 昭和二十二年十二月十一日 第二七七九三号

一、原因 昭和二十二年六月十七日 売買

一、取得者 大阪市阿倍野区阪南町中一丁目四十一番地 森本友蔵

三、前項順位一番乃至六番の登記中一番二番の登記は申立人の真意に出でたる登記にして有効であるが順位三番の登記は申立人に於て林件外人に右建物売却の事実なく無効従つて順位四番の登記に基いて横家件外人は権利取得をなさず仍而無効又従つて順位第五番の抹消登記は結果に於て相当、次に順位第六番の登記は林件外人に権利取得なきが故に同人より取得すべき何物もなく亦無効結局第三番第六番の各兩登記は夫々抹消せらるべき筋合のものに属する。

四、申立人は右順位第五、六番の登記前前項事由に基いて林及横家件外人に対し貴庁に本件建物所有権確認並に前項順位第三番、四番の登記抹消の訴を提起し(同庁昭和二十二年(7)第一二三八号)現に係争中であり、其の保全処分を怠つたが故に前項第一順位の無効の登記がなされるに至つた、茲に申立人は所轄南税務署に本年九月十一日出頭し右事由を訴え其の延期方を交渉したが応じて呉れず公売処分断行の決意を告知されたのでやむを得ず御庁に本件建物所有権確認及前三項順位第六番の登記の抹消及び第七順位の差押処分の取消の訴を右森本友蔵及国に対し提起した。

五、然れども右本案の判決までには相当の日時を必要とし来る二十日午前十時右森本友蔵の国税の為め競売せられんか、申立人は本案訴訟の目的物を喪失する事となり、且他方に於て抵当権設定登記に基いて金三十五万円也の債務ある事とてその債権には償う事の出来ない損害をかける事になり、他方本件建物は階下を十数件の店舖に階上をホテル経営に利用し居るため其の各関係人の受けたる損失も多大なりと想定せられますので行政事件訴訟特例法第十條に則り本件の保護を求むる次第であります。

疎明方法

一、甲第一号証 登記簿抄本

一、甲第二号証 証明書

右を以て申請の理由第三項の各登記ある事及び公売処分の日時切迫せる事

一、甲第三号証 公正証書

本案訴訟の被告森本友蔵に対しては優先し得る金三十五万円也の登記ある抵当権者あり償う事の出来ない損害を受ける事

一、甲第四号証 証明書

申立人は林件外人に本件建物を売却せる事実なかりし事、これは白紙委任状が不正に使用せられし結果なる事を夫々疎明致します。

附属書類

一、委任状 一通

一、証拠物写又は原本 各一通

昭和二十三年九月十七日

右申立人代理人

金子新一

大阪地方裁判所御中

2 昭和二十三年(ヲ)第一八八号決定取消申請書

大阪市南区久左衞門町二四

喜久屋本店内

申立人 出海政一

右代理人弁護士 金子新一

大阪市南区

被申立人南税務署長

上田義治郞

右当事者間の行政事件訴訟特例法第十條第二項に依る行政処分停止決定は左記の理由に因つて御取消下さるよう申請いたします。

理由

一、国税徴收法第三十一條の一の審査の請求がない。

二、予め当事者の意見を聽いてない。

電話を以て総務課長朝秀雄に意見を徴されましたが朝秀雄は大阪財務局徴收課の指示を経て意見を述べる旨を答えたのみであつて当事者である署長の意見は徴されていない。

三、公売処分の執行に因つて生ずべき償うことのできない損害はない。

公売処分に因つて或は将来恢復するかも知れない家屋所有権は喪失することとなるがこの損害は金銭を以て充分償い得るものであることは云うまでもない即ち法第十條第二項の償うことのできない損害とは金銭を以てしても償い得ない損害を指称するものであつて本件の場合はそれに該当しないものである従つて処分の停止決定はできないこのことは海口書店発行法務庁訟務長官奥野健一及び法務庁事務官にして行政事件訴訟特例法の立法担当官三宅正雄両氏共著改正民事訴訟の解説一一三頁末行より一一四頁始めに亘る解説に依つて明らかであります。

四、物権変動の対抗要件に公示の原則がある以上被申立人の為した差押処分及びその手続は毫も違法不適法の点なく極めて当然の措置でありますにもかかわらず本件の如き停止決定が申立のあるがままに為されることありとすれば行政庁の事務遂行は多大の障碍を受け就中本件の場合の如きは国家財政上最も緊急な要請である歳入の確保に支障を来し公共の福祉に重大な影響を及ぼすものであります。

昭和二十三年十月十三日

南税務署長

上田義治郞

大阪地方裁判所

第二民事部御中

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